トンデモ大予言の後始末

後始末はうまくいったのか?

名著『トンデモノストラダムス本の世界』の続編にあたる『トンデモ大予言の後始末』。ノストラダムス騒動の清算を意図した著作だが、後始末は本当にうまくいったのか?

大魔王の降臨を阻止した本

 1999年7の月、恐怖の大王は来なかった。何よりのことだが、それよりも幸いだったのは、実際に1999年7月がおとずれたときにも、人々はノストラダムスの大予言を深刻に受け取ることなくやり過ごし、目立った社会不安や混乱が起こらなかったということだ。せっかく大予言の月が来たというのに、何も騒ぎが起こらないなんてつまらないじゃないかという文章を当時読んだことがあるが、いやいや、オカルト信者たちが起こす妙な騒ぎなど起こらなかったにこしたことはないのである。

 あのとき、ノストラダムス熱鎮静化に大きく貢献した一冊の本があった。『トンデモノストラダムス本の世界』(山本弘著・洋泉社)である。五島勉の『ノストラダムスの大予言』をはじめとする、古今東西、超メジャーからどマイナーに至るまで、ありとあらゆるノストラダムス“研究書”を俎上に乗せて、その論理矛盾、自家撞着、誇大妄想などを徹底的にあげつらった傑作だった。

 曖昧な予言の文言から、次々にひねり出される珍妙な“解釈”の数々……「ノストラダムスはハイレグビキニの登場を予言していた」、「予言書の文言は、すべて日本語で解釈できる」、「私の解釈は、ノストラダムスの霊に直接聞いたから間違いない」、「ノストラダムスは私の出現も予言していた」、「いや、私がノストラダムスだ!」

 彼ら自称研究者たち(しかも、その大半が原書のフランス語をろくに読めない)のいいかげんな解釈をおもしろおかしく揶揄した同書は、「ノストラダムスの大予言なんてまじめに受け取るものじゃなく、ギャグとして楽しむものだ」という認識を世間一般に広め、問題の7月にノストラ信者たちが大きな問題を起こすことを防ぐ役に立った、そう言ってもいいだろう。

待望の続編、だが…

 『トンデモ大予言の後始末』は、そんな名著の続編として書かれたものである。実際に1999年7月を迎えた後のノストラ信者たちを、前著と同様コケにしてやろうという趣旨の本だ。しかし、読んでみて少し戸惑いを覚えてしまった。というのも、前著と比べてノストラ信者たちに対するまじめな批判が多いのだ。

 もちろん、地球壊滅とか宇宙人の侵略とかいう妄想で世間の不安を煽った連中に、まじめな批判の対象として不足があるわけではない。しかし、そんな彼らのトンデモない生態を、ギャグとして笑って楽しもうというのが、『トンデモ本の世界』(と学会編・洋泉社)にはじまるトンデモシリーズの基本姿勢だったはずだ。まじめな批判ももちろん必要なことだが、読者がトンデモシリーズに期待するのはそれではない。

 もうひとつの疑問点は、本書が独自の予言書解釈に踏み切っている点だ。もちろん「正統派の解釈……すなわち、フランス語に堪能でフランスの歴史に詳しい文学者や歴史学者の意見を紹介することは、おおいに意味がある」(240ページ)のは確かだろう。しかし、シリーズの趣旨であった「独自の解釈を行わず、トンデモさんたちの珍説を見比べて笑って楽しむ」というスタンスを自ら破ってしまったことが、本書の魅力を著しく損なってしまったような気がしてならないのだ。

 「怒っても殺せないときは、笑えば殺すことができる」とはニーチェのせりふだが、前著はまさにそれを実践し、まじめな批判(怒り)を受けてもすこしもへこまないノストラ信者たちを、見事に「笑い殺す」ことに成功した。しかし、続編である本作では、相手を怒って殺すのか、笑い殺すのかのスタンスが定まらず、その結果、まじめな批判本としてもトンデモ本紹介本としても、中途半端なものになってしまったような気がする。

(10/31/2003)

『トンデモ大予言の後始末』
山本弘著・洋泉社
おすすめ度:★★★☆☆